新型コロナウイルス感染状況を鑑み、
オンラインによるWeb配信による研修会といたします。
一般社団法人 熊本市医師会 会長 園田 寛
令和4年度の学校保健協議会および学校医研修会が熊本市で開催されますことは誠に光栄であり、心より歓迎申し上げます。本協議会は、昭和25年に京都市で第1回が開催されて以来、関係各位のご尽力により20の政令都市が参加する盛大な会に発展して参りました。
熊本市は、平成24年4月に政令指定都市に移行し、昨年開催地の相模原市についで20番目になります。現在人口は約74万人で熊本県のやや北部に位置し、日本最南端の政令指定都市です。熊本県は世界有数の巨大カルデラ阿蘇山を有し「火の国熊本」と称されますが、西には有明海、東シナ海もあり、山と海の自然に恵まれています。当然、海の幸、山の幸に恵まれ、食べ物のおいしいところでもあり、熊本市はその恩恵に与っています。一方、2016年4月に放映されたNHKの番組『ブラタモリ』では「水の国・熊本」と紹介されました。これは、熊本市は水道水の100%を阿蘇山の伏流水の地下水で賄っている日本一の地下水都市だからです。その縁あって4月23日、24日第4回アジア・太平洋水サミット国際会議が開催されました。蛇口をひねれば100%天然のミネラルウォーターでとても美味しいですし、水が美味しければお酒も美味しいです。また九州新幹線では最速約30分で福岡市に着きますし、高速道路では九州各県の県庁所在地には約2時間で着き交通の便のいいところです。阿蘇の裾野には広大な平野があり、阿蘇くまもと空港の近くには半導体生産最大手のTSMCの工場が2年後の完成を目指し建設中で、今後発展していく地域と期待されています。
昨年のこの会は相模原市医師会の主催で、コロナ感染拡大防止対策を考慮され、完全オンライン方式で開催されました。その大会冊子の次期開催医師会会長挨拶に「コロナワクチン接種が功を奏せば、次年度には通常通りの開催が出来るのではないかと期待している」と書きましたが、コロナはその後も収束する事はなく、今年度も通常通りの開催は困難と判断致し、現地開催とオンライン開催のハイブリッド方式で行うことと致しました。研修会は例年の如く、式次第のように眼科、耳鼻科、内科の順に研修室で行います。ハイブリッド方式ですのでコロナの状況次第ですが、現地参加が可能であれば是非ご来熊頂きたいと願っております。
熊本県は6年前に震度7を2回経験する大きな地震があり多くの被害を受けました。熊本市のシンボルの熊本城は、現在20年に亘る修復の真っ最中であります。天守閣は完成し一般公開されていますし、特別見学ルートを回りますと被害の状況がわかります。今回の地震で石垣の3割約10万個が崩れました。石垣は特別史跡ですので新しく作ることはできず、積み直すしかないのです。その作業は10万個の真っ白なジグゾーパズルをするのと同じで気の遠くなる作業です。
熊本弁では「してください」を「はいよ(拝領)」と言います。最後に熊本弁で一言。「でくんなら熊本に来て熊本城を見てはいよ(できるなら熊本に来て熊本城を見てください)」
公益社団法人 日本医師会
会長 中川 俊男 様
このたび、第73回指定都市学校保健協議会学校医研修会がWeb配信を軸としたハイブリッド形式ではありますが、熊本市で開催されますことをお祝い申し上げます。また、ご参加の皆様方には、日頃より地域の学校保健の推進にご尽力賜り、心から感謝申し上げます。
学校保健の推進の中心となる学校医活動は、かかりつけ医が地域医療の一環として担ってきた地域の社会的機能であり、地域医師会の活動の根幹のひとつです。そして、学校保健活動においては地域医師会が積極的に関与し、学校医個人だけでなく医師会をはじめとする医療関係者、教育委員会などが緊密に連携を進めていくことが重要であります。日本医師会は日頃から文部科学省とともに、そうした関係者の連携がさらに進むよう努力を重ねております。
新型コロナウイルス感染症の感染状況については、今後も増減を繰り返す可能性があり、予断を許しません。引き続き、感染対策の徹底とワクチン接種を推進していく必要があります。皆様方には、学校医として、また地域のかかりつけ医として、保護者や子どもたち、および学校から相談を受けた際は、正確な情報をお知らせし、地域住民と一層の信頼関係を構築していただきますよう、お願い申し上げます。
さて、本研修会では例年、眼科、耳鼻科、小児科についてのご講演があると伺っております。長引くコロナ禍が子どもたちの心身の健康に様々な影響を及ぼしていると案じております。また、ICTの活用、GIGAスクール構想が推進されるなど、子どもたちをとりまく環境も急激に変化しています。ご参加の皆様には、本研修会を通じて、学校医が取り組むべき課題について最新の知見を習得していただくことを願ってやみません。
結びに、本研修会の開催にあたりご尽力されました熊本市医師会、園田寛会長をはじめ、関係者の皆様に深く敬意を表しますとともに、本研修会の成果が、学校医活動の向上と推進に大きく反映されますことを祈念して、お祝いの言葉といたします。
熊本市長 大西 一史 様
令和4年度指定都市学校保健協議会学校医研修会が開催されますことを心からお喜び申し上げます。
本研修会主催の熊本市医師会並びに学校医の皆様方におかれましては、日頃より、子どもたちの心と体の健康や、学校保健の充実に多大なるご尽力を賜り、厚く御礼を申し上げます。
また、新型コロナウイルス感染症から、市民の皆様の命と健康を守るため、医療現場の第一線でご尽力されている医療従事者の皆様に対し、心から敬意と感謝の意を表する次第です。
ご承知のとおり、一昨年より続く新型コロナウイルス感染症の感染拡大や、デジタル機器の普及など、現代の子どもたちを取り巻く環境は目まぐるしく変化しております。
令和2年2月には全国の小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等において、新型コロナ感染対策としての一斉臨時休業措置が取られるなど、私達がこれまで経験のない状況への対応を迫られ、現在も刻々と変化する状況への迅速かつ柔軟な対応が必要とされております。
このようなコロナ禍において、本市の学校現場では、ストレスを抱える児童生徒に対し、学級担任や養護教諭等を中心としたきめ細かな健康観察等を行い、スクールカウンセラー等による心のケアに適切に取り組むとともに、子どもたちの学びを止めないようICT機器を活用し、授業内容を工夫するなど、感染防止対策を徹底しながら学校教育活動の継続に努めているところです。
また、熊本地震の発生から本年4月で6年が経過し、発災直後、カウンセリングを必要としている児童生徒は二千名を超えておりましたが、スクールカウンセラーを手厚く配置するなど心のケアに努め、本年2月の調査では74人まで減少している状況です。
このような中、子どもたちの心と体の健康についての様々な課題を研究・協議する研修会が本市で開催されますことは大変意義深く、未来を担う子どもたちの心と体の健やかな成長を支える環境整備に繋がるものと確信する次第です。
本年度の研修会は、新型コロナウイルス感染症の状況からWEB配信を軸とした現地開催とのハイブリッド形式となりましたが、新型コロナウイルス感染症の感染状況が落ち着いた際には、是非多くの皆様に熊本にお越しいただきたいと存じます。
結びに、本研修会の開催にご尽力されました皆様に改めまして敬意を表しますとともに、本研修会のご盛会とご参加の皆様のご健勝を心から祈念申し上げ、お祝いの言葉といたします。
熊本市教育長 遠藤 洋路 様
令和4年度第73回指定都市学校保健協議会学校医研修会が開催されますことを心からお祝い申し上げます。
学校医の皆様方には、日頃より児童生徒等の健康診断や疾病の予防措置のほか、健康相談や保健指導の実施等においても、重要な役割を担っていただいており、また、新型コロナウイルス感染症による例年にない対応を求められる中、子どもたちの健康の保持増進にご尽力いただいておりますことに深く敬意を表します。
さて、近年、地球温暖化やICTの普及など社会環境や生活環境の急激な変化が子どもたちの心身の健康に大きな影響を与え、様々な健康課題が生じております。加えて、新型コロナウイルス感染症の子どもたちの心身への影響が計り知れない中、新しい生活様式に対応しつつ、子どもたちの学びを止めないための取組を進めていくことも求められています。このような直面する課題に適切に対処し、生涯にわたる健康の保持増進の推進のためには、学校内の組織体制の整備に加え、学校、家庭、そして医療機関を含めた地域社会との連携が不可欠です。
本市は令和2年に「豊かな人生とよりよい社会を創造するために、自ら考え主体的に行動できる人を育む」ことを教育理念として、第2期となる「熊本市教育大綱」を策定しました。この理念に沿って、子どもたち一人ひとりが社会環境の変化に適切に対応し、学びに向かう力を持ち、豊かな人間性、健やかな体を備えた主体的に考え行動できる人づくりを進めています。また、一人1台の端末を使って、「教師が教える授業から子どもが自ら考え、主体的に学ぶ授業へ」という授業改革にも取り組んでおります。
子どもたちの健やかな体の育成に当たっては、本市医師会協力のもと、専門医による心臓検診、腎臓検診、脊柱側弯症検診、小児生活習慣病予防検診等に取り組み、学校や保護者とも連携し学校保健事業の充実を図り、児童生徒等の疾病異常の早期発見や予防につなげるなど成果をあげています。
このような中、子どもたちの健康の諸課題を研究協議する研修会が本市で開催されますことは誠に意義深く、学校保健の進展に大いに寄与されるものと期待しております。
結びに、本研修会がご参加の皆様にとって、実り多いものとなりますことをご期待申し上げ、お祝いの言葉とさせていただきます。
15:00 | 開 会 | 熊本市医師会学校保健担当 理事 杉野 茂人 |
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15:01 | 主催者挨拶 | 熊本市医師会 会長 園田 寛 |
15:05~16:05 | 研修会① 眼科 | 「学童期におけるデジタル機器による視機能の弊害」 宮崎眼科医院 宮崎 隆一 |
16:10~17:10 | 研修会② 耳鼻科※日耳鼻学会の領域講習の単位が申請できます | 「小児期における後天性難聴および進行性難聴」 熊本大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科講師 伊勢 桃子 |
17:15~18:15 | 研修会③ 内科 | 「成長曲線を用いた学校検診システム運用の実際~判定基準とその後の対応」 熊本大学大学院生命科学研究部小児科学講座准教授 松本 志郎 |
18:15 | 閉 会 |
「近視」。この言葉を聞いて深刻なイメージを持たれる方はどれだけいるだろうか。
文部科学省保健統計調査では、児童生徒らの視力検査で「裸眼視力1.0未満の者の割合」は年々増加している。その中で近視児童は8割と推定されている。近年、近視は世界的にも増加傾向にあり、まさに「超近視時代」の到来である。
近視の発生は、遺伝的な要因より環境的な要因が強く、その原因の一つに、「目とモノの距離」が重要視されている。つまり、近見視を主とするスマートフォンやタブレットなどデジタルデバイスの普及に影響があると言われている。また、近視児童の8割は軸性近視と言われ、眼球の長さ(奥行)が伸びていることが明らかになってきた。この伸びは元には戻ることはない。この伸びは、緑内障や眼底の病気を合併する「病的近視」を発症する。WHOは、2050年には世界人口の約半数にあたる50億人が近視になるとの試算を公表し、目の機能を著しく低下させ失明に至る可能性があるとして「公衆衛生上の危機」と警告を促している。
このような状況の中で、2019年12月に文部科学省から、「Society5.0時代を生きるすべての子どもたち(障害児童を含む)の可能性を引き出し、個別最適な学びと協働的な学び及び学校の働き方改革を実現する」ため、2023年までに義務教育段階にある全生徒に学習用端末を1人1台導入し、ICT教育を推進するGIGAスクール構想が提唱されている。さらに、新型コロナウィルス感染症の感染拡大に伴う自粛政策、オンライン授業の増加による影響でさらなる学童近視の増加と重症化が懸念される。
今回、学校保健視力検査の歴史、近視研究の流れそして、コロナ禍での近視発症状況などを紹介し、現在の児童生徒のデジタルデバイス使用の現状を踏まえて、その弊害について述べてみたい。また、「近視進行抑制」の治療法及び他国の近視対策の取り組みを紹介し、行政・眼科医療従事者・教育関係者に対して、GIGAスクール構想とウィズコロナ時代における「日本の学校健診と近視対策」の在り方を見直す必要性を考えてみる。
近年、新生児聴覚スクリーニング検査の重要性が啓蒙され、全国的に、検査費用の公費負担の割合も徐々に増えてきており、ほとんどの先天難聴児を早期から診断し、聴覚環境を整え、療育を開始することが可能となってきている。しかしながら、言語獲得後の小児期の難聴については、本人の訴えが乏しい場合は発見が遅れることもあり、学校健診における聴力精査および診察は大変重要な位置づけであると考える。これを裏付ける報告として、日本耳鼻咽喉科学会学校保健員会による「令和2年1月 耳鼻咽喉科学校保健の動向」によると、2019年度の耳鼻咽喉科健康診断全国定点調査で難聴が疑われた児の割合は、小学生0.90%、中学生0.63%であった。また、「難聴の疑い」から事後措置を経て学校に報告された真の難聴児の割合は、小学生0.30%、中学生0.35%であった。このことから、難聴疑いとされた小学生のうち約1/3が、中学生は約半数が、実際に感音難聴を呈していたことがわかる。
学童期・青年期の後天性難聴で留意すべき疾患として、外傷、真珠腫性中耳炎、滲出性中耳炎、ウイルス感染(髄膜炎、ムンプス、帯状疱疹等)、若年発症型感音難聴、音響外傷、機能性難聴、聴覚情報処理障害などが挙げられる。また、先天性難聴の原因として最も多いことで知られる遺伝性難聴であるが、疾患によっては、後天性に難聴が進行する可能性があるものもある。症候性難聴では、鰓弓耳腎症候群(BOR)、Usher症候群、骨形成不全症(Van der Hoeve症候群)、Alport症候群、神経線維腫症、Pendred症候群、ミトコンドリア脳筋症、ムコ多糖症などが挙げられ、また、非症候性難聴では言語習得後に起きうる難聴の遺伝形式として常染色体優性遺伝が多いとされている。小児期に発症する難聴および進行する難聴についての知見を深めることは、学校健診に携わるうえで非常に大切であると考える。
難聴を呈している児童生徒に対しては、家庭や学校での配慮が必要となってくるが、特に今般のCOVID-19感染拡大の状況下では、マスクの着用により口元を見て会話を行うことが難しくなったり、ソーシャル・ディスタンスを保つことやオンライン授業の導入により聞き取りの難しさや聞き直しにくさを感じる児童が多くなることが懸念される。このため、より一層話し方の配慮や視覚情報の併用が重要となる。
参考文献:日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 学校保健委員会
「令和2年1月 耳鼻咽喉科学校保健の動向」
「難聴をもつ小・中・高校生の学校生活で大切なこと 先生編」
平成26年4月、学校保健安全法施行規則の一部改正が行われ、「座高の検査を必須項目から削除することに伴い、児童生徒等の発育を評価する上で、身長曲線・体重曲線等を積極的に活用することが重要となる」という通知が出された。これを受け、日本学校保健会によって「児童生徒の健康診断マニュアル」の改訂、成長曲線作成プログラムである「子供の健康管理」の作成と全国の国公私立小・中・高校への配布が行われた。これにより、平成28年度から学校健診における、成長曲線を用いた児童生徒の発育評価が始まった。しかし、これまで成長曲線に馴染みのない学校医や養護教諭も多く、対応に混乱も認められた。また、事後措置に関する統一された基準がないため、地域や学校に活用が委ねられているという問題点が明らかになっている。このような背景から、九州学校保健協議会成長発育・小児生活習慣病等部門では、実態調査を行なった。その結果、成長曲線を作成しているのは、九州全体で小学校の71.9%、中学校の60.7%であった。県別にみると、小学校では、福岡県60.9%、佐賀県71.5%、長崎県94.6%、大分県33.3%、熊本県83.1%、宮崎県77.0%、沖縄県73.9%、中学校では、福岡県46.9%、佐賀県59.8%、長崎県95.2%、大分県25.0%、熊本県76.3%、宮崎県50.5%、沖縄県56.9%であった。作成後は、学校医に相談する49.3%、受診勧奨27.3%、注意喚起20.1%、何もしていない10.8%、その他15.3%であり、学校医への相談案件が多くなっていることがわかった。学校医への相談は、相談しやすい82.2%、相談しにくい6.0%、その他11.8%であった。その他の内容についての自由記載では、内科検診に間に合わず相談できなかった、保護者から相談時のみ学校医に相談等があった。学校医の対応は、参考になった72.3%、参考にならなかった4.9%、その他22.7%であった。今回、九州学校検診協議会として行ったアンケート調査で、成長曲線を活用する必要性を理解されていない学校も一定数存在し、成長曲線を活用する重要性の理解が完全には浸透していない現状が明らかとなった。このような実態調査から、成長曲線を用いた健診の重要性への理解、地域医療に適した受診体制の整備、養護教諭・学校医へのサポートなどが重要であることがわかった。本研修講演では、調査により明らかになった各地域での運用の実際を紹介するとともに、協議会で作成した受診勧奨の基準並びに具体的な対応について、学校医向けに作成している資料(案)を紹介する。